古来、中国皇帝の秘薬とされていた雪蓮花。チベット高原の高度3500mから5000mの高地に自生しているそうです。
20151104-2
この曲は、見つければ一攫千金である雪蓮花を取りに行く冒険家を描いた曲です。

雪蓮花は台湾の中国音楽コンクールのために作られた、なかなかマニアックな聴きどころの多い曲なので、今回の紹介ではコンクールの映像とともに中国音楽ファンならぜひ知っておきたいマニアックな部分を特に解説していきましょう。今回の解説は、普段あまりクラシック音楽を聴かない人にはわかりにくい内容でお送りいたします。ご了承下さい。


[0:00~0:55]
雪蓮花は笛のメロディと二胡達のトレモロから始まります。高山の冷たく寂しい雰囲気を醸し出すイントロです。

[0:56~1:58]
そして彈撥楽器による主旋律(移動ドの【ラ~ミ~】)が始まります。軽快なメロディは冒険家達が雪蓮花を取りに行くべく登山の準備をしている場面を描いています。
ここにマニアックポイントがあります。ここの主旋律は33小節あり、旋律と言えば笛と二胡の中国音楽の中で、彈撥楽器にだけ33小節も主旋律を弾かせる曲はなかなかありません。ぜひ彈撥楽器に注目してみてください。

[1:59~2:31]
山を登り始めます。冒険家達の決意のような力強さを感じるリズムです。

[2:32~2:59]
笛のメロディによって、冷たく寂しい雰囲気を再度強調します。

[3:00~3:57]
擦弦楽器による主旋律【ラ~ミ~】が始まります。主旋律の最初の三小節【ラ~ミ~】は彈撥楽器による主旋律の最初の三小節【ラ~ミ~】と同じ旋律ですが、そこから繋がる後ろの旋律は、主旋律を奏でる楽器の違いにより、ほとんど同じ音を使いながら、全く違う旋律へつながっていきます。そして伴奏も全く違うため、同じ主旋律の入り口なのに全く違う雰囲気が醸し出されます。
この、主旋律の最初の三小節が同じ、後ろは音が似てるのに全然違うというところにマニアックポイントがあります。むしろ言われないと、同じ主旋律だと気づかないほどです。この手法を使った曲もほとんど見当たりません。

[3:58~4:47]
緊張感高まるリズムから、雪蓮花を取りに行く道のりの過酷さを表現する段落へと流れていきます。

[4:48~]
嗩吶による三回目の主旋律【ラ~ミ~】の登場です。楽器が変わったこと、ほとんど同じ音だけど旋律が違うこと、伴奏が変わったことにより、これまでの主旋律と全く違う雰囲気を出しています。

実は主旋律同士を繋ぐブリッジの部分もマニアックポイントです。たかがブリッジ、されどブリッジ。実に多彩で、主旋律に引けを取らない旋律になっています。

最後のマニアックポイントは、この曲の一番最後の音。曲を通じて短調だったのに、一番最後だけ長調の響きで終わります。これは雪蓮花が見つかったときの「やったー!」という喜びを表したものなのかもしれません。

この曲が初めて世に登場したとき、誰もが驚いたと言います。この、一度も同じ出方をしない主旋律の使い方、そして主旋律と主旋律の間をつなぐブリッジ部分が多彩かつスムーズに主旋律同士を繋ぐところが、これまでの中国音楽になかった手法であるため、大変評価されています。しかもそれが学生コンクールのために書かれた曲だというのだから更に驚きです。

中国音楽の学生コンクール用楽曲は、通常あまり作曲家の思い入れがありません。やっつけ仕事が多いのです。
(余談ですが、学生楽団時代に【沙漠巡行曲】というコンクール用楽曲をコンクールで演奏するために、作曲家の蘇文慶先生に直接お会いして話を伺ったことがあるのですが、作った本人が「こんな曲作った記憶がない…」と言ったため、大きな衝撃を受けました。どんだけやっつけ仕事やねん。)
この曲も、実は曲のイメージである【雪蓮花】というテーマについてはあまり深い解説はありません。しかし、曲の作りに関していえば、ここまで作りこまれたコンクール用楽曲はないと思います。

非常にマニアックな【雪蓮花】、天翔楽団もがんばって演奏します。