今年の定演も無事終わり、ホッと一息ついたらやっぱりどこかへ出かけたくなった。11月後半に中国、長沙から張家界、武陵源と巡ってきた。まだ11月、あまり寒くないだろうと思いつつ、1500メートルを超える山の中の高地なので少々心配で、鞄に真冬用のダウンコートを忍ばせた。

関空から直行便で長沙に入り、次の日いよいよ張家界に移動。約5時間の道のり、途中サービスエリアでは、日本とよく似た造りのトイレやお店を体験。しかし規模は日本よりははるかに小さく、品物も豊富とは言い難い。中国の内陸にやってきたなあ、と実感した。

中国では近年大峡谷にガラスの吊り橋を架けることがはやっている。張家界の山の大峡谷に架けられたガラスの大橋はその先駆けで、最初に造られたガラスの吊り橋。そこをみんなで渡った。心配した通りものすごく寒かった。

このガラスの吊り橋は地上300mから400mの大峡谷に吊られたもので、下も上も断崖絶壁。高所恐怖症の人は恐らく渡れないだろう。でも私は少々高所恐怖症だが、頑張って渡ることができた。幸か不幸か天気が悪かった。下を見ようと思っても少し見えるだけで、完全に周囲が見えていたらどんなに恐ろしい景色だっただろう。しかしそれこそが間違いなく絶景。みんな怖い怖いの連発。(もしかして私だけか?)

ガラスの吊り橋から続く天子山、これは袁家界にある巨大な奇岩の膨大な集まりで、長い年月をかけ地球が作り上げた奇岩の絶景地だそうだ。もう十年ぐらいになるか、「アバター」が撮影された場所としても世界で有名になった。断崖絶壁に造られた道を歩くだけでも、怖くて足元がおぼつかない。「さあ、これから40分ハイキングをしましょう。」のガイドさんの声にみんな一斉に「ええーっ」。せっかく来たんだから頑張ろう。歩き出した。帰りはかの有名な「百龍エレベータ―」であっという間に岩山から下りた。よくこんな山奥の岩山にエレベーターを作ったものだと感心した。しかしここで感心しているわけにはいかない。次の日にもっとすごいものを目にすることになる。ちなみにこの日ホテルに帰って万歩計を見たら何と2万歩を超えていた。それもほとんど階段ばかりだった。

  いよいよ武陵源天門山、天門洞に行く日、私たちは寒さに備えて真冬の装備で出かけた。今回行った地区はもちろん全てが世界遺産に登録されている。車両の乗り入れは厳しく制限されており、一気に観光バスでとはいかない。途中で2回乗り合いバスに、並んで並んで乗り換える。ものすごい急カーブを右に左に揺られながら着いたところはまだ中腹、それでもものすごい奇岩の渓谷。すごい景色、1000メートル以上来たことになる。目の前に「上天(電)梯」の文字が見える。いよいよエスカレーターかと、緊張した。しかしエスカレーターなどどこにも見当たらない。やっとの思いで、エスカレーターの乗り場にたどり着いた。そこから何回も乗り継ぎ天門洞に至った。巨大な岩山にぽっかり空いたこれもまた巨大な岩穴。かつてこの穴を飛行機でくぐり抜けた人がいたらしい。しかしその後あんまり怖くて再挑戦する人は誰一人いないとのこと。ここまで階段で上って来ようとしたら999段。天気が良ければ挑戦する人も多いとか。これで終わりと思いきや、巨大な穴の上まで行くという。延々と続くエスカレーターを7機乗り継ぎ、寒さにふるえながら着いたところで、アイゼンをつけている観光客を発見、余計にふるえた。待っていたのは一面霧氷の銀世界。日本ではなかなか経験できない景色だ。装備の甘さもあって転ぶ人続出。雪道に慣れていないので足にちゃんと力が入りにくい。多分1500メートル以上の地点に立ったと思われる。ガラスの回廊が絶壁に造られていて樹氷を見ながらの空中散歩はここに足を運んだ人のみ味わえる特別の体験といえる。

今回の旅行では地球規模の風景、景色を体感できた。あんな山奥に岩山をくり貫き、都会の中と同じように何機ものエスカレーターを通したことは一言ですごい。日本人にはない人間のスケールの大きさ、したたかさ、そして国土の偉大さを感じずにはいられなかった。

とても感動した、いい旅で今年が締めくくれそうだ。