今回は、定期演奏会の第1部最後の曲【飛天】の紹介です。

『飛天』……聞きなれない言葉ですね。実はこれ、仏教における『天女』のことなんです。
20151015-1
こんな絵を見たことはありませんか?この人が『飛天』です。

中国の敦煌の近くに、『莫高窟(ばっこうくつ)』という仏教遺跡があります。そこには、600あまりの洞窟があり、面積を全て合わせると東京ドームとほぼ同じ広さがあります。そんな洞窟の中にはたくさんの仏像が置かれており、壁には一面に壁画が描かれています。【飛天】は、『莫高窟』の壁に描かれた『飛天』の壁画を題材につくられた楽曲です。

仏教遺跡がベースになっているので、この曲は非常に仏教的な感じを出している仏教音楽になっています。この曲では、お寺で「ポクポクポクチーン」とやる木魚と磬子(けいす)が使われています。

成田山上総寺ブログより画像引用

木魚
木魚
磬子(けいす)
磬子(けいす)

【飛天】は、全部で6つの段落に分かれています。一つずつ見ていきましょう。
第一段落―莫高窟はなんだかミステリアス(00:15~02:18)

なんだか不気味な感じで始まります。幽霊のようなものがヒューッと上がっていったり、ヒューーーーーと出てきたり。莫高窟はとってもミステリアスな場所なのです。
ここは旋律のようなものがないので、お化け屋敷に入ったような、不気味な洞窟の入り口の雰囲気を楽しんでください。
楽器は、笛のパートに注目です。口笛(くちぶえじゃないんです。コーディーという笛の一種です。)

口笛(手で隠れてほとんど見えません)
口笛(手で隠れてほとんど見えません)

第二段落―莫高窟の壁画は美しい(02:19~05:45)

いよいよ莫高窟に入っていきます。最初は不気味な雰囲気を感じていましたが、壁画が見えてくると、その美しさに目を奪われます。
ここでようやく旋律が出てきます。最初は笙だけが主旋律を奏で、彈撥楽器の間奏を挟むごとに主旋律を奏でる楽器が増えていき、盛り上がっていきます。
一歩ずつ莫高窟に足を進めるごとに、どんどん広がっていく壁画の数々を、主旋律が表現しています。彈撥楽器の間奏はまるで莫高窟に入った人たちが「すごいね」「ちょっと怖いね」と小声で話し合っているようです。
そうこうしているうちに、音楽はだんだんと落ち着いて行き、最後には意識が遠のくかのように低音と共に底に落ちてゆきます。

第三段落―神々の宴が始まる(05:46~07:31)

さて、飛天が面白いのはここからです。急に曲の雰囲気が変わり、明るくなります。
これまでは莫高窟に入る人の視点だったものが、壁画の中の世界へと変わり、仏教の神様視点になります。
というのも、この第三段落からは、仏教の神様たちが宴を始めるシーンを表現しているからです。
左では神様たちが酒を飲み始め、乾杯でグラスを重ね合わせる「チーン」という音がしたり、お皿をカチャカチャする音がしたり。
右では神様たち「おいおいウチらも混ぜろや」と陽気に歌い出し、すると左の神様たちも歌い始め。
最後には掛け合いのごとく右の神様も左の神様も勝手に歌い続けます。
そんなシーンを、最初は彈撥楽器で、更に擦弦楽器にバトンタッチし、最後には両者がそれぞれ勝手にメロディを奏で、ぐちゃぐちゃになることで表現しています。あぁやかましい。
しかし最後には全ての楽器が≪ビタッ≫と止まります。そして、次の段落へと進みます。

第四段落―大御所の登場(07:32~10:19)

それぞれに歌っていた神様たちが何か気配を感じて、歌うのをピタリと止めます。
すると、古箏の奏でる重々しい足音と共に、何かが近づいてきます。
この荘厳さ、間違いなく大物です。大御所の神様に違いありません。
「お前らだけで勝手に楽しんでるんじゃない。ワシにも楽しませんかぃ」
大御所の登場で、宴の場はよりにぎやかになります。
荒々しく、やかましく騒ぎ楽しむ神様を表現するシーンから、突如ややおとなしいシーンに移ります。
ここでは、お酒をついで回る天女―そう、飛天です―たちを表現しているのでしょう。
すこし落ち着きを取り戻したと思いきや、また皆が騒ぎ始めます。

第五段落―クライマックス(10:20~12:13)

そしていよいよこの曲のクライマックスがやってきます。
しかし飛天のクライマックスは長くはありません。気づけば、徐々に静かになっていきます。
それはさながらキャンプファイヤーの火のように、だんだんと火が消えていくように、宴の世界が消えていきます。
第二段落の終わりと同じように、低音と共に沈み込んで行き、場面が消えていきます。

第六段落―洞窟や 神々どもが 夢の跡(12:14~End)

場面は第一段落と同じところに戻ります。
今まで見えていた光景は夢か幻か、残ったのはミステリアスな雰囲気だけです。
その雰囲気も最後は無くなり、無へと帰ります。

少し長いですが、この曲を最初から最後まで通して聴いてみてください。

この曲は雰囲気重視の曲であり、効果音のようなものが多数使用されています。
その処理の仕方によって、演奏がまるで変わるのがこの曲の特徴です。
いわば、指揮者によって全然違った演奏になるのです。
また、聴き手側もいろんな想像を働かせながらこの曲を聴くと、また違った情景が見えてきます。
そんな深い深い飛天、ぜひ天翔楽団の生演奏を聴いてみてください。